人生のかわし方

アメリカ片田舎にてハロウィンの思い出

ハロウィンの思い出

ハロウィンの夜、暗くなり、気温が下がって来た頃に家のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、サイクロプスのコスチュームを来ているオジーが現れた。水泳キャップのようなものにはお手製の目が取り付けられ、肩からは薄い茶色のブランケットがかけられている。
彼は僕の友達夫婦の息子だ。

僕の奥さんは用意していたお菓子が山盛りのバスケットを彼に差し出した。
彼は遠慮がちにお菓子を一つだけ取った。

アパートから出ると、外はすっかり冷え込んでいた。
古い型のボルボに乗り込み、近所にある公園に向かう。 公園の周りの家はハロウィンのネオンで輝いていた。ちょっとした遊園地のアトラクションかと思うくらいだ。
ストリートには外灯はあまりなく、ハロウィンの光だけが煌々と輝いている。

僕と奥さんが家の飾り付けを見ているうちにオジーがドアをノックする。
中から衣装着た人の良さそうなおじいさんが出て来て、彼にお菓子を渡す。
「これはサイクロプスかな?」
「そうです」
「あー手作りなんだね。良く出来ているよ」
「ありがとう」
「ハッピー・ハロウィン」
「ハッピー・ハロウィン」
ジーが僕らのところに戻ってくる。
ハロウィンの装飾のある家々をまわって、同じようなやりとりをひたすら繰り返した。

時には装飾の無い家もある。周りの人たちをみる限り、こういう家には立ち寄らず、ハロウィンのかぼちゃや装飾のあるところだけをまわっている。
おそらくそういう暗黙の配慮があるのだろう。

気温は氷点下に近かった。僕は厚手のダウンにドクター・マーチンを履いていたがすっかり体は冷え切っていた。雪国育ちだけど寒さにはとても弱い。
そんな時に、ある家でコンロに火を炊いているのを見つけた。
僕たちは火に寄って行った。
家の人たちは、オジーにお菓子をあげた。
更に、温めたアップル・サイダーを御馳走してくれた。 パチパチを燃える火を見つめながら、サイダーを頂いた。
その家の娘さんは地元の高校で教師をしているらしい。卒業したのは僕の嫁が働いている大学だ。話をするとすぐに繋がりが見つかる。 狭い町なのだ。

その暖かいコミュニティを後にして、もう少しだけ家を回ることにした。
S字型の道が庭から玄関につながっている家があった。
ライトやガイコツ、そしてかぼちゃが点々と設置されていた。
その中で一つ気になる物があった。
小さい子供くらいのサイズの人形がうつ伏せになって置いていた。
僕は良くできるな。でもこれって本当に人と勘違いされて危ないんじゃないかな、なんて思いながら顔を寄せて良くみようとした。  

すると、その人形が急に起き上がって、叫び出した。
驚く僕らを見ながら子供が笑っていた。

やられた。僕と嫁は顔を見合わせた。
よくこんな寒い中地べたに寝ていられたな。

帰りにオジーからキット・カットをもらった。

トリックもトリートもちゃんともらって僕は満足した。
アメリカのハロウィン、しかも田舎町のほのぼのとしたハロウィン。
忘れる前にここに記録しておこう。